医学用語の話(2)・・・胆汁は何色?

胆汁を表す言葉は二つあります。一つはbil-、もう一つはchol(e)-です。どちらもなじみがあると思います。

臨床検査の一つに、黄疸の指標となるビリルビン(bilirubin)があります。肝臓から胆汁に捨てられ、便の色となる色素です。実際は総ビリルビン(total bilirubin)と直接ビリルビン(direct bilirubin)を測ることが多く、検査報告にはT. Bil, D. Bilと略されます。ほかにbil-が付くものとしては胆管 bile duct、胆道系biliary systemなどがあります。

bilirubinは、実は胆汁の赤い色素という意味です。rubinは赤、赤い宝石のルビーと同じです。うーん、私には濃い黄褐色に見えますが、欧州ではあれも赤のうちなのか。

一方で、chole-のつくものとして、胆嚢炎cholecystitis(cholecyst(o)-は胆嚢の意味)、総胆管結石 choledocholithiasis(choledoch(o)-は総胆管の意味。なお、lithは石で、リトグラフlithograph=石版画)などがあります。

経皮経肝胆管ドレナージ percutaneous transhepatic cholangiodrainage=PTCDは、閉塞性黄疸で行われる体外からの代表的な処置のひとつです。エコーで見ながら皮膚から肝臓を貫き、拡張した肝内胆管に針を刺してチューブを留置することですが、この寿限無みたいなのを、ひとつバラしてみましょう。

per-は「〜を経由して」、cutaneousは皮膚の意味です。per os は「経口で」のラテン語で(os は口、形容詞はoral)p.o.と略されます。皮膚については、皮内注射intracutaneous injection(icと略されることあり)、皮下subcutaneous(scと略)などで使われます。

移植transplantationでおなじみのtrans-は「〜を越えて、移して」で、hepat(o)-は肝臓です(肝炎hepatitisなど)。それでtranshepaticは「肝臓を越えて」になります。chol(胆汁)angio(脈管)=胆管cholangio+ドレナージdrainage、これでPTCDが経皮的経肝胆管ドレナージと判りました。

コレステロールcholesterolも関係があります。最初胆汁から分離されたコレステリンは化学的に-OH基をもつためアルコール類の呼び名となってコレステロールになりました。

同じ骨格を持つものとして性ホルモンや副腎皮質ホルモンがあり、これらはステロイド(steroid)ホルモンと呼ばれます(-oidとは似たものの意味)。副腎皮質ホルモンは単にステロイドと呼ばれることも多く、その代表として内服のプレドニン、アトピー性皮膚炎の軟膏や喘息の吸入薬として身近なものです。

さて、胆汁の色に戻ります。黒い胆汁という言葉もあるのです。melan(o)-は黒です。黒色腫=メラノーマmelanomaは悪性度の高い腫瘍でご存じですね。黒い胆汁=melancholy、メランコリー=ゆううつ。昔ヨーロッパで胆汁が黒いと憂鬱になると思われていた名残が、こんなところに生きていました。

(福)小倉新栄会 新栄会病院 顧問
三木 幸一郎