医学用語の話(3)・・・細菌などの学名

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とか、VREとか、細菌の名前は判りにくい、と思っている人はいませんか?どう読んだらいいのか判らない!という人も少なくありません。今回からしばらくその話をしてみましょう。

まず、生物の「学名」の話は避けて通れません。しばらくガマンしてください。

1700年代にスウェーデンのリンネという人が、生物に国を超えた共通の名前を着けることを提唱しました。日本語で「ヒト」(日本では生物名を科学的に表記するときはカタカナ表記と決められています)といっても他国の人には判りませんから、共通の名前があれば確かに便利です。わが国では学名と呼んでいます。私たちヒトはHomo sapiens(ホモ・サピエンス)です。

リンネが唱えたのは二名法と呼ばれ、かなり近い生物に共通の「属」を名づけ(人間でいえば姓、ヒトではHomo)、その後に種小名(sapiens)をつけて個々の種(「しゅ」と読みます、確実に子孫を残せる生物の集団です)を表すもので、国際的な命名規約に基づいて決められます。そして、ラテン語のルールに従ってイタリック(斜体)で表記します。当時でもラテン語は誰も生きた言葉として使っていなかったので、どの国からも反対されなかったのでしょう。なお、この命名法は動植物、細菌に適用されますが、ウィルスは含まれません。

さて、どう読んだらよいのか。

基本的に、日本のローマ字読みのようにそのまま棒読みします(cやchはkで発音する)。しかし現実にラテン語をしゃべっている人は地球上にいないので、皆さん自国語に準じているようです。

例えば大腸菌Escherichia coliはエスケリキア・コリ、E. coliはイー・コリと読むべきですが、英語風にイー・コライと読む(日本)人が増えています。それならばHelicobacter pyloriもヘリコバクター・パイロライかというと、たいていの人は正しくピロリと読むようです。全然一貫しとらん。

ICD-10の内容例示表にも不適切な訳があります。A31の内容例示でMycobacterium(結核菌を含む抗酸菌の属)をマイコバクテリウムと訳していますが、公式にはミコバクテリウムでしょう。というか、学名をカタカナ書きすること自体ありえないのに。

緑膿菌を含む Pseudomonas属はシュードモナスと読まれることが多いのですが(正式にはプセウドモナス)、ドイツ語で学んだ世代の中にはプソイドモナスと読む人もいます。カリニ肺炎のPneumocystis属も「ニューモシスティス」と読む人が大多数ですが、私が学生の時の試験に「プノイモチスチス肺炎について述べよ」という問題を出した教授がいました(原語で書け!と突っ込みたくなります)。

凶暴な恐竜の代表、ティラノサウルスの名前はご存じでしょう。Tyrannosaurus rexが学名ですが、一般の米国人が読むとタイラノソーラス(ソーにアクセント)なのです。同じく頭に3本角がある恐竜トリケラトプスはTriceratopsですが、これがトライセラタプス(セにアクセント)と発音されるのです。初めて聞いたときは何のことか判りませんでした。

(福)小倉新栄会 新栄会病院 顧問
三木 幸一郎